2013年9月24日火曜日

金原瑞人さんの講演会へ

先日、児童書を多く翻訳してらっしゃる金原瑞人さんの講演会「言葉の翻訳と翻訳の言葉」に参加してきました。確か、市立図書館のチラシで偶然見つけた講演会です。広島市の図書館だけで、金原さんの訳書・著書は405タイトルあるとか(!)。

往復葉書で申込み(^-^;)

私が金原さんを知ったのは(正確に言うと、意識したのは)、「翻訳家じゃなくてカレー屋になるはずだった」というエッセイ本でした。翻訳関係のエッセイは目につくと必ず読んでいましたが、この本は特にタイトルがユニークで印象に残っていました。ちなみに、芥川賞を受賞した金原ひとみさんのお父様でもあります。



もうお年は60歳前後のはず…と思って開始を待っていると、真っ赤な可愛いTシャツ(後に『時計仕掛けのオレンジ』のデザインと判明)にジーンズ姿の若々しい方がはずむような足どりでステージの上に登場。客席がどよめいていました。皆さんの気持ちが手に取るように分かります(笑)。30代にも見えてしまって。

それから2時間たっぷり、ずっと立ちっぱなしで、面白いお話をたくさん聞かせてくださいました。スライドも何もなしです。話術だけでこれだけの時間、お1人で聴衆を引きつけるのは大変なことだなとしみじみ。笑いもたくさん。普段から大学で教えていらっしゃるせいもあるのでしょうけど、それにしてもすごいです。

翻訳の業界関係者を対象にしたセミナーは何度も参加したことがありますが、これは一般市民が対象でした。それでも会場はいっぱいで、質疑応答も時間が足りなくなるほど活発で。とても新鮮でした。金原さんは、全国あちこちでこういった講演をされているようです(ちなみに無料でした)。本当に本が、文学が大好きで、その面白さをたくさんの人に知ってもらいたい、という熱意を感じて、何だかこちらまで胸が熱くなりました。そして、心から楽しそうなんですよね、お話してらっしゃるときの表情も。少年みたい。

また、外国語の「翻訳」という枠にはとらわれておらず、最近は日本の古典文学を若い世代に紹介するための翻案がとても楽しい、とも仰っていました。若手作家のものは若い翻訳家に譲って、自分は古典に移りつつある…と。近年はサマセット・モームなども訳されているとか。

電子書籍に対する考え方などもとても柔軟で、「読者参加型翻訳」など(半分冗談かもしれませんが)ユニークなアイデアをいろいろと披露してらっしゃいました。とにかくまだまだやりたいことは山ほどある!というパワーが伝わってきました。

印象に残るお話はたくさんありましたが、中でも「翻訳はすべて誤訳である」という言葉には重みを感じます。原書をそのまま正確に伝えるなど絶対に不可能である、と。それを分かっていながら、その中でベストを尽くすのだと。

たとえば英語の「I」。男でも女でも大人でも子供でも使う、無色透明な一人称。英語なら、ラストまで語り手が男か女かを伏せることも可能だけれど、日本語に訳してしまえば「私」「僕」「オレ」必ず何らかの色がつく。「翻訳はすべて誤訳である」とは、そういった意味での言葉です。

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思った以上に長くなってしまったので、まだまだメモはあるのですがこの辺で。とても楽しいお話し上手な方なので、お近くで講演会がありましたらぜひ、皆様も足を運んでみてください。

その際には予習として、このあたりの本を読んでおくと面白いかもしれません。ちょうど最近読んでいた本だったので、重なる内容もいくつか出てきて興味深かったです。絵本翻訳、一度挑戦しようとしたことがあるのですが、子供向けの文章というのはなんと難しいのだろう…としみじみ感じたものでした。ことばって、本当に奥が深い。興味が尽きません。



この後、映画「風立ちぬ」を観に行き、意外にも金原さんのお話とリンクすることを感じて「こんな偶然もあるのだなぁ」と驚いたのですが、その話はまた後日…(たぶん)。書きたいことはたまっているのですが、ちょっとバタバタな今日この頃です。

 

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