2016年2月25日木曜日

「キャロル」を観て読んで

ふっと空いた時間に足を運んだ映画「キャロル」。期待にたがわず、素晴らしい作品でした。

大好きな「サロンシネマ」にて

女同士でありながら、はからずも惹かれ合っていくふたり。同性愛は精神病とまで思われていた時代です。初々しいルーニー・マーラは、「麗しのサブリナ」のころのヘプバーンを彷彿とさせます。とても愛らしくて目が離せない。そして、キャロル役をこれだけの説得力をもって演じられる役者は、もう彼女以外に考えられないというほどのハマリ役、ケイト・ブランシェット。

とにかく二人の女性が魅力的すぎて、ストーリーを別にしてもずっとずっと見続けていたい…そんな作品でした。ラストシーンのケイトの表情が今も脳裏を離れません。

余韻さめやらぬまま、その日の夜に原作(訳書)を読み始めたのでした。これがまた、何とも美しい小説で。映画では描ききれなかったところまで、心の機微を繊細な表現で綴ってあります。柿沼瑛子さんの翻訳がまた素晴らしかったです。




あまりに美しい表現に、元の文章はどんなだろうと原書も購入して少しずつ読んでいます。特に惹かれた一文を、引用してみます。

翻訳:
「パジャマも歯ブラシも持たず、過去も未来もない夜は、時間の海原に浮かぶ新たな小島となってテレーズの胸に、記憶にくっきりとどめられた。」

原文:
「without pyjamas or toothbrushes, without past or future, and the night became another of those islands in time, suspended somewhere in the heart or in the memory, intact and absolute.」

(原文が小文字で始まっているのは、長い一文が二つに分けられていたためです)

こうして見ると、自分がこの原文からこんな翻訳ができる日が来るだろうか…? と、つかの間落ち込みます。「時間の海原に浮かぶ新たな小島」なんて表現、どうやったら出てくるのでしょう。でも、こうして見比べてみるのはとても楽しく勉強になります。



私の中でパトリシア・ハイスミスはサスペンス作家というイメージでした。かの名画「太陽がいっぱい」の原作「リプリー」の作者ですから、大多数の方がそう思っていたのではないかと思います。当時は、ハイスミスの名声に傷がつかないよう別名義で発表されていたそうです。原題は「The Price of Salt」(よろこびの代償)でした。付き合いのある大手の出版社はリスクを恐れて出版を拒み、小さな出版社から世に出たものの、あっというまに百万部を超えるベストセラーになったとか。そのあたりの詳しいこともあとがきに書いてあり、これもまた興味深く面白かったです。Kindle版ではあとがきが省かれていてがっかりすることが今までに何度もあったのですが、「キャロル」は大丈夫でした!

翻訳を担当された柿沼さんの紹介文もこちらにあります。ハイスミスが自らの経験にもとづき、あっという間に梗概を書き上げたことなどにもふれてあります。

【原書レビュー】え、こんな作品が未訳なの!?【毎月更新】 
第三十一回はパトリシア・ハイスミスの巻(執筆者・柿沼瑛子)
- 翻訳ミステリー大賞シンジケート

人間は誰しも孤独を抱えていて、惹かれ合うのに男も女もない…そんなありきたりなことを、しみじみと考えさせられる作品でした。そして、こんな一節も思い出したのでした。

   万有引力とは 引き合う孤独の力である --- 谷川俊太郎




 

2 件のコメント:

  1. 『麗しのサブリナ』と聞いただけで、ヘップバーンの若々しい姿が思い浮かびます、私も真似をして作ったジャンバースカート、サブリナシューズ、パリから持ち帰った美しいドレス、
    ケイト・ブランシェットも見てみたいです
    うっちーさんは原書が読めて、ほんとに良いなぁ~と思います
    ビデオになるでしょうか
    生きていてゼッタイ観たいと思います

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    1. うっとりする映画ですよ~。ぜひ見ていただきたいです(^_-) 二人ともアカデミー賞にノミネートされましたし、ビデオにはなると思いますよ。ジャンパースカート、かわいかったですねえ!あの頃のヘプバーン、大好きです。子どものころは、パリに行って垢抜けたあとよりも、ジャンパースカート姿が好きでした(^o^)

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